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名古屋地方裁判所 昭和37年(ワ)129号 判決 1963年11月11日

原告 中村清次郎 外二名

被告 近藤新太郎

主文

被告は原告中村清次郎に対し金十万円およびこれに対する昭和三十七年一月二十一日以降右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

原告中村のその余の請求および原告高木豊治、同天野雄之助の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告中村と被告との間において生じた部分はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告中村の各負担とし、原告高木と被告との間において生じた部分は同原告の、原告天野と被告との間において生じた部分は同原告の各負担とする。

事実

原告らは「被告は原告らに対し金六十二万五千円およびこれに対する昭和三十六年八月十五日以降右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告中村清次郎および被告は所定の登録を了して宅地建物取引業を営む者であるが、昭和三十一年二月頃、原告天野雄之助は訴外河野重助からその所有にかかる名古屋市昭和区広見町三丁目四十二番地宅地五百坪(以下単に本件土地という)の売却を委託され、同原告はさらに同三十四年頃原告高木豊治、中村にその協力方を要請し以後各自その媒介に努力していたところ、昭和三十六年六月三日原告高木は被告から名古屋市内の桜山附近で売りに出されている土地はないかとの問合せを受けたので、直ちに本件土地を被告に紹介し、その媒介の協力を求めたが、その際原告らは被告との間に本件土地売買の仲介手数料は各自平等に分配するとの契約をなし、同年六月二十一日原告高木は被告をしてさらに右契約を再確認させた。

二、仮りに叙上のような契約がなかつたとしても依頼者より依頼を受けた数人の不動産業者のうち一人が媒介に成功して依頼者より手数料を受領した場合には当該売買契約の成立に協力した全員においてこれを等分すべき商慣習がある。

三、しかして昭和三十六年八月十五日本件土地につき売買契約が成立し、同日原告ら立会いのもとに本件土地の所有権移転登記手続を了し、被告は原告らを代表して訴外河野から仲介手数料として金百五十万円受領した。したがつて原告らは各自金三十七万五千円の手数料を受くべきところ、被告は原告天野に対し金四十万円、原告中村、同高木に対しそれぞれ金五万円を支払つたのみで、原告らの請求にも係らずその余の金員を支払わない。

四、よつて原告らは被告に対し原告ら一人当り金三十七万五千円の合計金百十二万五千円からすでに原告らにおいて受領した前叙の合計金五十万円を控除した残金六十二万五千円(換言すれば被告の手裡に存在する金百万円から自己の取分金三十七万五千円を控除した残額)および被告が訴外河野より仲介手数料を受領した日である昭和三十六年八月十五日以降右完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴におよんだ。

旨陳述し、

被告の答弁事実中原告の主張に反する点はすべて否認すると述べ、証拠として原告らは甲第一ないし第六号証を提出し、証人近藤きく、同天野たづゑの各証言および原告天野、同中村、同高木の各本人尋問の結果を援用し、原告天野、同中村は乙号各証の成立はいづれも認めると述べ、原告高木は乙第一ないし第三号証の成立はいづれも認めると述べ、同第四号証については認否をなさなかつた。被告訴訟代理人は「原告らの請求は棄却する。」との判決を求め、答弁として、

原告ら主張の請求原因事実中、原告中村清次郎および被告が所定の登録を受けた宅地建物取引業者であること、昭和三十六年六月上旬頃被告が原告高木豊治に対し売に出されている土地の紹介方を申し入れたこと、昭和三十六年八月十五日に本件土地の売買契約を成立しこれが所有権移転登記手続を了したこと、および被告が訴外河野重助から仲介手数料として金百五十万円を受領しそのうち金四十万円を原告天野雄之助に、各金五万円を原告中村、同高木にそれぞれ交付したことは認めるが、その余の事実はすべて否認する。

被告が原告らに右金員を交付したのは、原告ら主張のような契約によるものではなく、次の理由によるものである。すなわち、本件土地の売買契約は、原告らが昭和三十六年六月下旬頃売主である訴外河野から売買媒介の委託を解除された後、昭和三十六年七月下旬頃被告が改めて訴外河野から売却方を依頼されて被告単独にて成立させたものであり、何ら原告らの協力を受けなかつたのであるが、売買契約成立の折訴外河野から原告らも相当長期間に亘つて本件土地の売買にたづさわつていたのであるから多少の分配はしてくれとの要請があつたためである。したがつて右金員は仲介手数料として交付したものではなく、単に恩恵的のものである。

また仮りに本件土地の売買契約が原告らの仲介によつて成立したものとしても、当時原告高木、同天野は宅地建物取引業法に基ずく登録をなした不動産業者でなかつたから、同法第十二条、第二十四条により仲介手数料を請求する権利はない。

旨述べた。

証拠<省略>

理由

原告中村清次郎および被告が所定の登録を受けた宅地建物取引業者であること、昭和三十六年六月上旬に被告が原告高木豊治に対して売りに出されている土地の紹介方を求めたこと、昭和三十六年八月十五日に本件土地の売買契約が成立し被告が売主である訴外河野重助より仲介手数料として金百五十万円を受領したことおよび被告がそのうち金四十万円を原告天野雄之助に、各金五万円を原告中村、同高木にそれぞれ支払つたことはいづれも当事者間に争がない。

原告天野本人尋問の結果により真正に成立したと認める甲第一ないし第六号証、証人柘植鉦太郎、同二村芳兼、同天野たつゑの各証言(但し、証人二村の証言中後述の措信しない部分は除く)原告天野、同高木および同中村の各本人尋問の結果(但し、原告天野、同高木の各本人尋問の結果中後述の措信しない部分を除く)被告本人尋問の結果(但し、後述の措信しない部分を除く)および弁論の全趣旨を綜合すると、

昭和三十一年頃訴外河野よりその所有の本件土地につきこれが売却の媒介を委託された原告天野は媒介に努力すると共に、同三十四年頃原告高木に、同高木は同中村にと順次右媒介の協力方を求め、それぞれ媒介に努めたが売買成立に至らなかつたこと、しかるに昭和三十六年四、五月頃原告高木から買主の物色方を要請された被告の努力によつて同年六月頃買主訴外前口近衛の代理人訴外二村芳兼との間にほぼ売買の話ができたので、訴外河野方で訴外二村が手附金六百万円を訴外河野に支払おうとした際、訴外河野はその場に立会つていた原告ら三名、被告および訴外二村に対し「お前らにこの土地は売らぬ」といつて契約の締結を拒否したこと、その後被告は知人である訴外柘植鉦太郎が訴外河野と昵懇の間柄であつたので、同訴外人から紹介状をもらつて単身訴外河野宅を訪れ、同訴外人から本件土地売却の委託を受け、その後媒介に努力した結果、昭和三十六年八月二日頃訴外河野方で同訴外人と右訴外前口の代理人訴外二村との売買契約を成立させるに至つたのであるが、その折訴外河野が原告天野も長い間骨を折つてくれたのであるから一応同人にも売買が成立したことを話しておかねばならないと原告天野を呼んだが不在のためその妻に対して代金授受の日には原告天野も立会うよう要請したこと、しかして同年八月十五日原告天野、被告および訴外二村が立会つて本件土地の売買代金の授受と移転登記手続を了し、同日訴外河野は被告に仲介手数料金百五十万円を交付したことおよびその際訴外河野が被告に対し原告天野も骨を折つたのに話をまとめることができなかつたのだから同原告にも多少恵んでやつてくれるよう要請したので、被告は原告天野に金四十万円を交付すると共に原告中村、同高木に対しても金五万円づつを交付したことが認められ、証人二村、原告天野、同高木および被告の各供述中右認定に反する部分は前顕各証拠に対比してにわかに措信できないし、他に右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

以上認定の事実から判断すると訴外河野が原告ら三名、被告および訴外二村に対してお前らにこの土地は売らぬといつたとの事実のみでは訴外河野が原告天野に対する売買仲介の委託を解除したと解することは早計であり、かえつてその後売買契約が成立した際訴外河野が原告天野を立会わせようとしたが、同原告が不在のためその妻に対し、代金の授受および登記手続の際には原告天野も立会うことを求めたこと、しかして右代金の授受と登記手続の日に原告天野が立会つていることおよび訴外河野が被告に仲介手数料を支払うにあたり原告天野にもその一部を交付するよう要請し、被告もこれに応じ原告らに対し前認定の金員をそれぞれ交付していること等を併せ考えると原告天野に対する訴外河野の売却仲介の委託は前認定の売買契約成立当時まで依然として継続していたものというべきである。よつて原告天野に対する訴外河野の委託は解除されていた旨の被告の主張は理由がない。

ところで原告中村、同高木各本人尋問の結果によると原告ら三名と被告間には仲介手数料の分配について何らの取り決めもなかつたことが認められるばかりでなく、かような場合には仲介手数料を仲介者間で等分するとの商慣習の存在についてもこれを認めるに足りる証拠はない。

したがつて、以上認定のように分配につき何らの取り決めのない場合にはむしろ、契約成立およびこれに附随する事務について各宅地建物取引業者がいかなる努力と貢献をしたか、すなわちその努力の期間、難易等、その程度およびその人の社会的地位、信用度等のいかんに応じて分配さるべきものと考える。よつてその手数料の配分について判断するに成立に争いのない乙第四号証(ただし、原告高木については同原告においてこれが成立を明らかに争つていないから自白したものとみなす)と原告中村本人尋問の結果によれば本件売買契約成立当時原告天野、同高木は愛知県宅地建物取引業者としての登録をすることなくして同業を営んでいたことが認められるところ、宅地建物取引業法第十二条第一項、第十七条第一項および第二十四条の規定に照らすと、すでに被告から任意に支払を受けた前叙の金員は別とするも少くとも進んで媒介による報酬の支払を求めることはできないものと解すべきであるからその余の判断をなすまでもなく失当である。

次に原告中村については、同原告が本件売買につきいかなる程度の努力をしたかについては前認定事実に現われた程度のほか他にこれを認める証拠がないから、右程度によるとすでに被告から交付を受けた叙上金五万円のほかなお被告に対し金十万円を請求し得るものとするのが相当と考える。

よつて原告らの本訴請求中原告中村が被告に対し右金十万円および本件記録に徴し支払命令正本送達の日の翌日であることが明らかな昭和三十七年一月二十一日以降右完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当であるからこれを認容するが、右金十万円を超える部分および昭和三十六年八月十五日(被告が仲介手数料を受領した日)以降右認定の日までの遅延損害金の支払を求める部分についてはこれが支払を求め得る原因事実を何ら主張立証をしていないからいずれも失当としてこれを棄却し、また原告高木、同天野の被告に対する請求部分は失当であるからこれを棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 木戸和喜男)

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